労働者が始業及び終業時刻を自由に選択できる「フレックスタイム制」(労基法第
32条の3)ですが、フレックスタイム制を採用する企業では、顧客対応の必要性等の理由から、労働者が必ず勤務しなければならない時間帯の「コアタイム」を設けることが多いでしょう。

フレックスタイム制を導入するにあたり、コアタイムを設けることは必須ではありませんが、コアタイムを設ける場合には、労使協定においてコアタイムの開始及び終了時刻を定める必要があり(労基則第12条の3)、また就業規則にもコアタイムの開始及び終了時刻を規定する必要があります。

例えば、以下のような内容を就業規則及び労使協定に定めることが考えられます。
・フレキシブルタイム:午前6時~午前10時、午後3時~午後7
・コアタイム:午前10時~午後3
・休憩時間:正午~午後1時(1時間)
(以上につき下記図参照)

図:フレックスタイム制(コアタイムを設けた場合の例)

フレキシブルタイム

コアタイム

休憩

時間

コアタイム

フレキシブルタイム

 6:00                    10:00             12:00      13:00                  15:00                              19:00

さて、労働者が必ず勤務しなければならない時間帯の「コアタイム」ですが、このコアタイムに遅刻したり、早退したりする従業員がいる場合には、コアタイムを設けた意味がなくなりますので、使用者としては非常に困ったことになります。
そのため、使用者としては、コアタイムに遅刻・早退した時間分の従業員の賃金を控除する、又は就業規則の遅刻早退規定に基づいてその従業員を懲戒処分する・・・ことができるかといったらそう簡単にはいきません。

そもそもフレックスタイム制は、労働基準法第32条の3が「始業及び終業の時刻をその労働者の決定にゆだねる」ものであると定義しており、行政解釈においても、フレックスタイム制は始業及び終業の時刻の両方を労働者の決定に委ねる必要があるとしています(昭63.1.1基発1、平成11.3.31基発168)。
すなわち、フレックスタイム制は労働者が始業時刻も終業時刻も自由に決定できることに眼目があり、いつ出社・退社するのかは労働者の意思に委ねられているのです。
このような前提があるため、フレックスタイム制ではあくまでも清算期間の総労働時間をもって労働時間の過不足を清算しており、清算期間の総労働時間をみたしている限り、ノーワーク・ノーペイの原則は妥当せず、コアタイムに遅刻・早退した時間分の賃金控除を行うことはできないことになると考えられます。

それでは、賃金控除ができないとしても、就業規則の遅刻早退規定に基づいてその従業員を懲戒処分することはできないのか?という点ですが、就業規則に「正当な理由なく欠勤、遅刻、早退するなど勤務を怠ったとき」には懲戒処分を行うことができるという規定を設けている会社は多いと思いますが、この規定がそのままコアタイムの遅刻・早退に適用できるかといったらそれは難しいと考えられます。

というのも、懲戒処分を行うには、①懲戒事由の該当性、②懲戒の種類・程度(量刑)の相当性、③適正手続の遵守というステップを踏んでいく必要がありますが、「懲戒事由の該当性」(①)は罪刑法定主義の観点から、あらかじめ懲戒となる事由が明示的に定められている必要があり、特に実務上は労働者保護の見地から懲戒事由の文言を限定解釈する傾向にあります。
そのため、遅刻・早退の観念がそのまま妥当しないフレックスタイム制の下では、ましてやフレックスタイム制の労働者と通常の労働者とが混在している職場では特に、「正当な理由なくコアタイムに欠勤、遅刻、早退するとき」に懲戒処分を行うことができると明確に規定する必要があります。

ここで、フレックスタイム制は労働者が始業時刻も終業時刻も自由に決定できることに眼目があるのに、コアタイムの遅刻・早退を懲戒事由にして良いのか?という疑問がでてきます。つまりコアタイムの遅刻・早退を処分したら始業及び終業の時刻を労働者の自由な決定にゆだねたことにならないのでは?という疑問です。

フレックスタイム制においても、任意に出退勤可能なフレキシブルタイムに上限を設けることを認めており、また勤務時間も清算期間の範囲内にすることが前提となっていますので、完全に労働者に勤務時間の自由を与えているわけではありません。深夜労働や休日労働も通常の労働者と同じく割増されるため、深夜労働や休日労働を使用者が制限することも可能です。(厚生労働省 フレックスタイム制QAhttps://www.mhlw.go.jp/www2/topics/seido/kijunkyoku/flextime/980908time06.htm
この点、出退勤時刻だけでなく、勤務時間までも完全に自由な「高度プロフェッショナル制度」とは異なり、フレックスタイム制は、ちょうど通常の労働者と高度プロフェッショナル制度の労働者の中間の位置付けというイメージです。

そのため、フレックスタイム制においても完全に労働者に勤務時間の自由を与えているわけではなく、企業秩序維持の観点(コアタイムに出勤しないと引継ぎができない、取引先との打ち合わせができない等)から、労働者の出退勤時刻決定の自由という利益は一歩後退し、コアタイムの遅刻・早退を懲戒事由にすることが可能であると考えられます。ただし、懲戒処分の種類・程度(量刑)については、フレックスタイム制の趣旨を加味して慎重に判断する必要があります。
その他のコアタイムの遅刻・早退への対応策は、コアタイムの出退勤を、勤怠考課や賞与の査定項目に反映させることが考えられます。


弁護士 馬場 悠輔